GUAM

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3ベッドルームといって、これは日本の3LDKのことだと思う。
周囲に家が少なく、窓から見えるのが緑ばかりなので好きだった。しかし、独り者が3つも寝室を持ったところで意味がないし、現在ひとりも入居していないことに抵抗があった。
2階中央部分が塾だったようでこれから再開すると聞いたが、完全に自分だけが住人となると外出時の安全に不安が出る。
周囲の環境もさほど悪くなく、月額900ドルというのは相場より少し安かった。結局ここは契約に至らなかった。
この建物は外装を塗り直したばかりだからきれいだ。少し古くなると外観はすぐみすぼらしくなる。
寒い所や乾いた所は一般的に建物がきれいに見えて、高温多湿の所はなんとなく汚れてくるのである。
 
到着して2週間。私はグァムが嫌いだと分かった。
戦後しばらくして在日朝鮮人母国帰還事業があった。北朝鮮は夢の楽園だという完全な嘘に騙されて朝鮮人が本国に帰還し、当人たちがその実態を知った時はもう二度と日本に戻ることができなかった大変な悲劇である。
当時は船で北朝鮮に行ったのだが、港が近づくにつれてそのあまりの貧しさが見えてきて、皆が「騙された!」と後悔したそうである。
船から降りた後の現実はいっそう酷く、日本まで「ボロでも良いから服を送ってくれ」「せめて針と糸だけでも送ってくれ」という手紙が来たと、帰還事業に携わった人から実際に聞いた。
もちろん、物資がないのはまだマシなほうで、帰還した在日やその配偶者達は北朝鮮で最下層の人間に分類されるか強制収容所に送られるかの結果になった。

私の場合は誰かに騙されたのでなく自分の意思でグァムに引っ越すことを決めた。
離島であるのは知っていたが、同じアメリカだからさほど生活は変わらないだろうと勝手に思っていたのである。
しかし、来てみたら愕然とすることの連続である。
今日知ったのは「グァムに郵便配達がない」ということだ。
アパートを契約する際に、グァムは米国本土のチェック(小切手)が使えない。現金を受け付けないことの多いアメリカは小切手を使うことが多いのだが、普通のアメリカと違ってここはグァム島内の銀行が発行するチェックしか認められない。
金を借りようというのでなく銀行に金を預けるだけなので、通常は口座開設など極めて簡単である。しかし、グァムではどうしても話が通じないのである。
銀行に当方の住所を伝える。ところがその後で執拗に私書箱の話をしてきて、どのようにして郵便を受け取るのか聞いてくるのだ。
住所があるなら郵便を受け取るのもその同じ住所に決まっている。なぜ私書箱が必要なのか理解できない。
何度も意味の分からない話を続けた後で仕方なく不動産屋に帰りそのことを伝えたら、グァムは持ち家と大型アパート以外に郵便を配達しないというとんでもない話を聞いた。
道路に名前がなくて住居表示も不完全なグァムはどうやって郵便を配達するのか疑問に思っていたが、答えは「配達などない」というものだったのである。
本土で毎日見る DHL,Fedex,UPS 、つまり日本でいう宅配をほとんど見かけない理由はこれだったのだ。
商店が少なく品物の選択も少ないグァムだが、それは道路を鶏が歩いていて少し木の多い所に入って行けば野ブタがいるほどの村だから仕方ないのだろう。
本土に比べ汚く見劣りのするショッピングセンターが嫌いだ。汚い住宅と乱雑で見苦しい商店の看板が嫌いだ。南国の気候が嫌いだ。青い海とヤシの木が嫌いだ。
要するに、今のところグァムのすべてが大嫌いなのである。
アメリカは何処に行ってもアメリカだなどと勝手に思っていた私が愚かだったのだが、人生で大きな間違いをしてしまったようだ。
アパートの契約は通常1年だから早めに解約すると1月分の家賃を捨てることになる。
しかし、1年もの長い間こんな離島に住む自信がない。